なぜ遺言書を書くのか
遺言書を書く理由
なぜ遺言書が必要なのでしょうか?遺言書を書く理由は、家族や親族における遺産のもめごとを事前に避けるためです。
遺言書がなければ、本人が望んでいたようなかたちで遺産分けがなされなかったり、相続をきっかけに家族関係に不和が生じてしまったりする可能性があるからです。
「遺言書はお金持ちが書くもので自分には関係ない」と思っている人もいるかもしれませんが、遺言書はお金の多少に関わらず必要です。遺言書を書くことで遺された家族や親族が相続で揉めることを防ぐことができます。
また「遺言書を書くのはまだ早い」と、相続について考えるのを先延ばしにしている人もいるかもしれません。しかし人生はいつ何が起こるか誰もわかりません。遺された家族や親族が困らないように遺言書を書いておきましょう。
それほどたいそうに考えず、とりあえず何かあった時のために遺言書を書いておきましょう。自分で書いた遺言書なら費用はかからず、いつでも書き直すことができます。
遺言書で大切なことは、無効にならないことと、残された家族が財産の分け方で迷ったり、困ったりしないことです。
それを考えると遺言書はシンプルなものが望ましいです。家族へ気持ちを伝えたいなら遺言書とは別に付言事項として残しておけば最後のメッセージとして遺された家族や親族に自分の気持ちがより良く伝わると思います。
遺言書がないと揉める可能性があるケース
遺産相続では、法定相続よりも遺言による相続が優先されます(遺言優先の原則)。遺言書がないと法定相続人全員が集まって「遺産分割協議」で遺産の取り分を決めなければならず、争続に発展する可能性があります。
たとえば子のいない夫婦の場合、相続人は、法律により順番が決められています。子のいない夫婦の場合は、親がすでに他界していると、法定相続人は配偶者と亡くなった人の兄弟姉妹となります。
相続順位 | 優先順位があり、順位が上の者が相続した場合、原則として下位のものは相続できない |
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常に相続人になる者 | 配偶者 |
第1順位 | 子 |
第2順位 | 直系尊属(第1順位の子がいない場合は父母が、父母がいなければ祖父母が相続人になる) |
第3順位 | 兄弟姉妹(第1順位の子も第2順位の父母もいない場合に相続人になる) |
つまり、夫婦のどちらかが亡くなると、その人の遺産は遺言書がない限り遺された配偶者と亡くなった人の兄弟姉妹が相続することになります。配偶者と兄弟姉妹で遺産の分け方を相談して決めます。
そして、兄弟姉妹には4分の1の法定相続分があるので、請求されたら拒否することは難しいです。
配偶者 | 他の相続人 | ||
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2分の1 | 第1順位 | 子 | 2分の1 |
3分の2 | 第2順位 | 直系尊属 | 3分の1 |
4分の3 | 第3順位 | 兄弟姉妹 | 4分の1 |
このようなケースの相続は心情的に納得のいかないことも少なくありません。また遺された配偶者のその後の暮らしが不安定になるかもしれません。
このような事態を防ぐためには、遺産を遺された配偶者に相続させる遺言書を書くことです。
兄弟姉妹には遺留分がないので、全ての財産を配偶者に遺すことを遺言書で定めれば、配偶者だけが問題なく相続できます。
遺言の現状
では、遺言の現状はどうなっているのでしょうか。大きく分けると遺言には遺言者が遺言書本文を自分で書いて作成する自筆証書遺言と公証役場で公証人と証人2名の立ち合いのもとで作成する公正証書遺言の2つがあります。
令和3年の公正証書遺言の作成件数は10万6028件でした。また自筆証書遺言書保管制度の利用件数は令和3年1年間で1万7002件でした。毎年亡くなられる人が130万人とすると10人に1人が遺言書を両制度を利用して保管していることになります。
もっとも遺言書は本人が書いて自宅で保管しておくことができるので、実際はもっと多くの人が遺言書を書いています。
各遺言証書のメリット・デメリット
自筆証書のメリット・デメリット
自筆証書遺言は、遺言者が遺言書本文を自分で書いて作成する遺言書のことです。以下のようなメリットやデメリットがあります。
メリット | デメリット |
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*検認とは、相続人に対し遺言の存在を知らせるとともに、遺言書の形状や内容などを明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。遺言書の保管者や発見した相続人が遺言書を家庭裁判所に提出して、検認を請求する必要があります。ただし、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば受ける必要はありません。
公正証書のメリット デメリット
公正証書遺言は、公証役場で公証人と証人2名の立ち合いのもとで作成します。メリットやデメリットは以下のようになります。
メリット | デメリット |
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自筆証書遺言書保管制度
自筆証書遺言については、法務局での保管制度が2020年7月10日から始まりました。自筆証書遺言書保管制度のメリットは、これまでの自筆証書遺言のデメリットをカバーする点です。以下の点が挙げられます。
自筆証書遺言書保管制度については法務省のホームページに内容、手続き方法などが丁寧に説明されているので参考にしてください。
遺言者本人が保管申請の手続きを行わなければなりませんが、遺言書1通につき手数料は3900円で、保管申請の撤回や変更の届けも可能です。原本は遺言者死亡の日から50年間、遺言書の画像データは150年間保管されます。
自筆証書遺言の作成で注意するべきポイント
民法の第968条1項に、自筆証書遺言についての決まりごとがあります。
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
同条の2項に、パソコンで作成した財産目録やコピーした資料には署名と押印をすること、そして3項には、書き間違えた場合の修正方法があります。
決まりごとはこれだけで、遺言を書く用紙や筆記用具などは指定されていません。但し、消すことができないボールペンのような筆記用具が良く鉛筆はお勧めできません。
また自筆証書遺言書保管制度を利用するには、民法で定められた要件だけでなく、本制度を利用する様式が決められています。詳細は法務省の自筆証書遺言書保管制度ホームページの手続きをご覧ください。
まとめ
自筆証書遺言と公正証書遺言の効力は同じで、作成した日付が新しい遺言書が有効になります。
財産状況や周りの環境も変わることが予想されることから、体が元気なうちはいつでも書き直しが容易な自筆証書遺言が良いのではないでしょうか。公正証書遺言や自筆証書遺言書保管制度の利用はその後でも間に合うと思います。
また財産状況や万が一のことが起こった時の対応などをエンディングノートに書いておけば遺された家族は助かるでしょう。
遺言書は、煩雑な相続手続きを軽減してくれるので、遺された家族から感謝されることは間違いありません。
尚、複雑な相続が予想される場合は相続の専門家に相談した方が安心でしょう。
*法定相続とは、法定相続人が法定の相続分割合に従って相続することをいいます。遺言が無く、遺産分割の協議がまとまらない場合に、法定相続となります。
*遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことをいいます。 ・亡くなった方は、自身の財産の行方を遺言により自由に定めることができますが、被相続人の遺族の生活の保障のために一定の制約があります。 これが遺留分の制度です。